2023/10/10
【適用範囲拡大】106万の壁対策【従業員も企業も対策必須】
社会保険の取り扱いが変化する年収の基準はいくつかあり、いわゆる「◯◯万の壁」と呼ばることも多いです。「106万円」はそのひとつです。
「106万円の壁」とは、勤務先での社会保険(健康保険・厚生年金保険)の加入条件の年収目安です。
この条件を満たすと勤務先で社会保険に加入しなければならず、法改正で順次対象事業者が拡大しています。
目次
社会保険の加入対象者
下記の5つの条件をすべて満たすと加入対象者となります。
1. 週の所定労働時間が20時間以上30時間未満(※週所定労働時間が40時間の企業の場合)
※契約上の所定労働時間であり、臨時に生じた残業時間は含みません。
※契約上20時間に満たない場合でも、実労働時間が2ヶ月連続で週20時間以上となり、なお引き続くと見込まれる場合には、3ヶ月目から保険加入とします。
2. 所定内賃金が月額8.8万円以上(※年約106万円以上)である
基本給及び諸手当が含まれます。ただし残業代・賞与・臨時的な賃金等は含みません。
(含まれない例)
・1月を超える期間ごとに支払われる賃金 (賞与等)
・時間外労働、休日労働及び深夜労働に対して支払われる賃金(割増賃金等)
・最低賃金に算入しないことが定められた賃金(精皆勤手当、通勤手当及び家族手当)
3. 2ヶ月を超える雇用の見込みがある
4. 学生ではない
※休学中や夜間学生は加入対象
5. 従業員101名以上(厚生年金の被保険者数)の勤務先で働いていること
厚生年金の被保険者数が100人以下の企業でも、「労使合意(働いている方々の2分の1以上と事業主が社会保険に加入することに合意すること)に基づき申し出している」又「地方公共団体に属する事業所」であれば、101人以上の要件を満たすことになります。
(2023年10月現在)
2024年10月、さらに社会保険の適用範囲が拡大!!
社会保険加入の適用範囲はこれまで段階的に拡大されており、2024年10月にはさらに社会保険の適用範囲が拡大する予定です。
上記の5の要件が、従業員数(厚生年金の被保険者数)が101人以上から51人以上へ変更となり、より従業員数の少ない企業も対象となります。
このことでパートやアルバイトで働く方のうち、106万の壁を超えて社会保険の加入対象となる方はさらに増えます。
改正までまだ時間はありますが、対象となる事業者の従業員の方、企業の担当者はしっかり準備をしておく必要があるでしょう。
では、具体的には何をすればよいでしょうか?
パート・アルバイト従業員の対策
勤務先が該当(従業員数51人以上)し、条件を満たして社会保険の強制加入の対象となる従業員は条件改正の1~2か月前から勤務先と労働契約の内容を確認する必要があります。
また社会保険加入のメリット、デメリットを踏まえて、自分はどうしたいか決定し、勤務先へ意志を伝える必要があります。
社会保険加入のメリット
1.保険料の半額は会社負担
社会保険に加入すれば、支払うべき保険料の半分を企業が負担してくれることになります。
例えば国民健康保険と国民年金は全額自分で支払う必要があるので、社会保険に加入したほうが少ない自己負担で済む可能性があります。
2.老後に受け取れる年金額が増える
厚生年金保険に加入すると、国民年金から将来受け取れる基礎年金の額に、在職中に支払った厚生年金の保険料に応じた金額を上乗せしてもらうことができます。
3.生活保障のための傷病手当金、出産手当金制度が利用できる
けがや病気を理由に3日間連続で休む場合、給与の支払いを受けられないなどの一定の条件を満たせば、4日目以降に傷病手当金の受給が可能です。
出産手当金や出産育児一時金は、要件を満たしていればすべての雇用形態の人に支給されます。
社会保険加入のデメリット
1.給与の手取り額が減る
社会保険に加入すると当然ですが保険料を支払う必要があります。
これまで扶養の範囲内で働いていた人など、社会保険の被扶養者だった人は手取り額が減ります。
またパート労働者の場合、収入が正規のフルタイム従業員よりも少ないことが多いため、保険料の支払いが収入に対して大きな負担となる可能性があります。
社会保険に加入したい場合
・担当者に社会保険加入の手続きをしてもらいます。
また、配偶者の扶養に入っている人は配偶者勤務先の社会保険喪失手続き、国民健康保険に加入している人は自治体で喪失手続きを行います。
社会保険に加入したくない場合
・社会保険扶養内で働きたいことを伝え、雇用契約を改定してもらいます。
扶養内で働きたいことを明確に伝えることが大切です。
現在の雇用契約だと社会保険加入の対象者になってしまう場合は、シフトを減らすなどして加入対象から外れる雇用契約にしてもらいましょう。
・副業で収入を分散させる
社会保険には加入したくないけれど、パートやバイトでの総収入は落としたくない人は、勤務先のシフトを加入非該当の範囲に抑えて、複数の企業を掛け持ちで働くという方法もあります。
社会保険の強制加入は1つの勤務先で該当すると加入することになるので、複数の勤務先から給料を分散することで、条件に当てはまりにくくなります。
※ただし、社会保険上の扶養に入るためには、複数の勤務先の掛け持ちの合計年収が130万円を超えないように注意する必要があります。
該当する企業(従業員数51人以上)の担当者の対策
企業の経営者や担当者は2024年10月の1~2か月前に、雇用契約の見直しや対象者の社会保険加入準備をする必要があります。
・社会保険加入対象となることを対象の従業員に知らせます。社会保険に加入するメリットやデメリットを説明するとより親切でしょう。
・社会保険に加入する従業員がいる場合は、社会保険加入手続きを行います。
・社会保険加入対象となる従業員がいるが、その従業員が社会保険に加入したくないという場合はシフトの調整や雇用契約を見直す必要があります。
106万の壁、政府の対策
パートやアルバイト労働者が社会保険に加入したくないと考える理由は「手取りが減る」ということが大きいと考えられます。
事業主も社会保険の事業主負担が増えることもあり、積極的には推進したくないという企業もあると考えられます。
そこで政府は年収が一定額を超えると手取りが減るパートタイム労働者やアルバイトが就労調整をするといういわゆる「年収の壁」問題への対応策を示しました。
それが厚生労働省は2023年9月27日に公表された「年収の壁・支援強化パッケージ」です。
「年収の壁・支援強化パッケージ(厚生労働省)」
年収の壁・支援強化パッケージの内容
・106万円の壁への対応(キャリアアップ助成金のコースの新設、社会保険適用促進手当の標準報酬算定除外)
106万円の壁の対応策として、キャリアアップ助成金を拡充し、新たに被用者保険の適用となる短時間労働者の収入を増加させた事業主に対し、一定期間助成(労働者1人当たり最大50万円)されます。
助成対象となる取り組みに、労働者の手取り収入減少分に相当する手当(社会保険適用促進手当)を支給するケースも含めます。
被用者保険が適用されていなかった労働者が新たに適用となった場合には、給与・賞与とは別に「社会保険適用促進手当」の支給を認め、労働者本人負担分の保険料相当額を上限として、最大2年間、当該労働者の標準報酬月額・標準賞与額の算定に考慮しないなどの施策がとられます。
また、支給申請の提出書類の簡素化など事務負担も軽減します。
・130万円の壁への対応(事業主の証明による被扶養者認定の円滑化)
被用者保険の被扶養者認定に当たり、一時的な収入の増加で130万円を上回る場合、事業主の証明を添付することで迅速な認定を可能とします。
・配偶者手当への対応(企業の配偶者手当の見直し促進)
収入要件がある企業の配偶者手当の見直しに向けては、見直しの必要性・メリット・手順などを示す分かりやすい資料を作成し、周知します。
「年収の壁・支援強化パッケージ」は今後拡充される可能性があるので、動向に注視して経営者様は賢く利用していきましょう。
新しい助成金や年収の壁の支援対策について興味のある方はリアライ社会保険労務士法人までお問い合わせ下さい。
おわりに
法改正や政府の労働関係に関する対策の新情報を配信しています。
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